寄稿 岩槻郷土資料館だより75 「遷喬館扁額」

今回紹介する「遷喬館扁額」は、絹地に「遷喬館」と書かれ、縦三六㎝、横八六㎝の額装になっているものです。左側の下には「己未 藤久慎書」と落款がみられます。干支などから寛政一一年(一七九九)遷喬館が設立された際、加納久慎(ひさちか)が自ら筆を執ったものであることがわかります。

加納久慎は、加納家の養子となった大岡忠光の次男、加納久周の子にあたります。久周は幼少のとき、江戸の大岡家藩邸で、児玉南柯を素読の師として、勉学に励みました。加納家に入ってからも南柯の学徳を慕い、享和四年(一八〇四)に自らが描いた菅神画像を文化二年(一八〇五)三月一六日に遷喬館へ送り、また伏見奉行在任中には、南柯を伏見に招くなど主従の関係を越え、永く交流がもたれました。また久慎は父と共に遷喬館や児玉南柯を援助し、天明八年(一七八八)、児玉南柯が部下のおこした事件で職を辞した際、南柯を弁護するための書簡を寄せています。

遷喬館を岩槻藩の藩校としたとされる大岡忠正も、加納久周の子であったことを考えると、加納久周親子の力が児玉南柯や遷喬館に対して、大きなものであったことがわかります。

この「遷喬館扁額」は、児玉南柯自画像、菅神図(加納久周画)、勤学所の額、短冊などと共に、昭和五三年三月二九日に県指定文化財である「児玉南柯日記及び関係書籍」、また岩槻藩遷喬館を補足する内容をもつ資料群として、岩槻市指定文化財(当時)になりました。
さいたま市と合併した後は、「さいたま市指定文化財」として引き続き保存が図られ、この「遷喬館扁額」は、岩槻郷土資料館で常時展示しています。

 

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

CAPTCHA


インフォメーション

  1. 2024-5-11

    睡眠不足がもたらす健康リスクとは?④

    睡眠障害とは? 睡眠障害は、多くの人が抱える問題です。不眠症や睡眠時無呼吸症候群など、様々な種類が…
  2. 2024-5-11

    3時間で避難所開設の台湾

    [caption id="attachment_22004" align="alignright" …
  3. 2024-5-11

    柏崎小学校 PTA会長としての想い③

     今回は3月31日に原町自治会の田中泰之会長に主催頂きました、しあわせサロン会とお花見&お楽…

『らうんじ』からの募集・告知

  1.  今回は3月31日に原町自治会の田中泰之会長に主催頂きました、しあわせサロン会とお花見&お楽…
  2. ハート型の大きな丸みのある羽からの印象でしょうか? おおらかな蝶が出来ました! 黄色の前羽と赤紫…
  3. 学童で働いていた私が子供との関りを綴る日々の記録です。  色んな子どもと関わってきました。勉強はし…
  4. ーーー番大変だったのはどのヒーローですか? どれも大変だったけど、1番は「突撃!ヒューマン」だね。…
  5.  温かな陽気がようやく訪れてきましたね。 今月号が皆さんのお手元に届くころには桜は散っているでしょ…

岩槻について

  1.  今回は3月31日に原町自治会の田中泰之会長に主催頂きました、しあわせサロン会とお花見&お楽…
  2. 学童で働いていた私が子供との関りを綴る日々の記録です。  色んな子どもと関わってきました。勉強はし…
  3. ーーー番大変だったのはどのヒーローですか? どれも大変だったけど、1番は「突撃!ヒューマン」だね。…
  4. 「出会い」 きっかけは ささやかなもの 進みの違う時計の針が 廻り続けるように ある点で交…

アーカイブ

過去記事

イベント終了などで移動になった記事はこちらから

移動済み情報記事一覧へ

 

ページ上部へ戻る