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今回紹介する「俳額」は明治二六年八月に奉納されたものです。
「菊羽」山崎浅之丞、「新月」新井栄蔵、「静月」渋谷要蔵、「狐月」真々田貞次郎、「綾月」真々田阿具藏の五人が催主となって催された句会で読まれた一〇一句の俳句がみられます。
岩槻は江戸時代の終わり頃には俳句がかなり盛んであったといわれ、「岩槻俳句鏡全」には、「岩槻の地が名実共に俳句に於て発展せしは享和・文政の頃とす。(略)侍と云わず町民。百姓といわず皆之を玩びついに嘉永・安政の盛況を見たり」とあります。
埼玉県東部では芭蕉と同門であった山口素堂を祖とする「葛飾蕉門」と呼ばれる俳句の一派に属する俳人が多くみられます。
その門弟をみると、村々の名主、修験、神職など五〇数人にのぼり、中には判者になったもの数人いるといわれています。
この俳額が奉納された尾ヶ崎新田にはこの一派で江戸時代後期に活躍し、判者になった「真々田素泉」がいます。
ここにみられる真々田姓の人物はこの「真々田素泉」の血を引く人物と考えられます。
また、俳額に見られる人物は、句に添えられた地名からみると「ヤシタ」「尾ケサキ」「釣上新田」「大門」「中ノダ」「大サキ」「孫十郎」「コシマキ」など岩槻南部からさいたま市緑区、越谷市周辺にわたっていて、「葛飾蕉門」の門弟たちの広がりとも一致するようです。
埼玉県内の俳諧について、地方の俳人たちにはまだまだ研究が進んでおらず、こうした各地の神社などに残る俳額がその研究の一歩となっていくものと思われます。
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