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今から半世紀ほど前。
昭和40年代に小学校高学年の担任を務めていた時の想い出である。
帰りの会で「さようなら」をした直後、クラスのリーダー格であったO君が「今日の5時に愛宕神社へ集合な!」とまわりの友だちに伝えていた。
塾も習いごともない下校後の自由時間を小さな集団で遊ぶことは承知していたが、しかし、夕暮れ近くの5時ともなると小学生にとっては遅い時間だ。
そう思った私は、O君に「えっ、5時? そんな遅く……?」と問いかけた。
すると彼は「夕日を見るんです」と言った。
思いがけない答えに心の中で「夕日?」と思った私は、彼らの仲間入りすることにした。
当時の岩槻にはまだ、今のような高い建物がなかった。
私たちが向かった数メートルはあろうかという小高い丘からは、辺りの景色をほぼ180度にわたって望むことができた。
西の空には、赤みを帯びつつも黄金に輝く大きな太陽があった。
それを見た私は、体が吸い込まれるような感覚に陥った。
青い空もまだ残っている時間帯で、頭上を見上げてから西へと目をやると、藍・紫・ピンク・黄と徐々にぼやけていく色の変化を味わえた。
視線を移してみると、遠くたなびく雲もあった。
それぞれの形や色もさまざまで、優美に広がる景色は、私のつたない文章力では表現しきれないほどに雄大で美しい世界だと感じられた。
感傷にひたりながら、私はO君に「きれいな太陽だね。
教えてくれてありがとう」と言った。
空を見た子どもたちはその後、広場で遊びに興じていた。
この美しい光景と共に思い出すのは、明治生まれの祖母の姿だ。
朝起きてから顔を洗い、その後は太陽に向かって祈る姿があった。
大自然に祈りつつ過ごした明治の人びと、自然を満喫して生活した昭和の子どもたち、そして、科学文化の恩恵を授かり楽しむ平成の子。
現在では科学技術が創りだした便利な生活、道具に恵まれているが、自然の脅威も大きくなったように感じる。
私たち人間は、自然への畏敬の念を根底に置かなければいけないとしみじみ思うこの頃である。
【谷倫】
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